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zoom RSS 宮城谷昌光『香乱記』(一)〜(四)新潮文庫

<<   作成日時 : 2006/06/01 21:25   >>

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 大変大変遅れました。ちょっと前に読み終わってはいたのですが、仕事にかまけて記事を書くのが伸び伸びとなってました。というわけで、遅ればせながら感想を。

 あらすじとしては、秦末漢初、秦の始皇帝が死に、劉邦と項羽の一大決戦時に、祖国斉を復興させ見事な生を送った田横の物語である。

 正直、今回はあまり面白くなかった、一つの点を除いては。

 何といっても致命的なのは、僕にとって田横という主人公があまり魅力的に思えなかったことだ。確かに主人公としてあげるには面白い人物だ。戦国時代の斉の王族の末裔であり、さかのぼっていけば、『晏子』に出てきた田氏につながる。物語としても、宮城谷氏の傑作『楽毅』ともつながっている。さらに特に前半は秦王朝の話なので、『貴貨居くべし』にもつながる。そういう意味では宮城谷昌光ファンとしては、一連の著作の流れにつながるものであり、そういう楽しみもあるだろう。しかし、著者が田横にほれ込んでいるのは分かるのだが、その行動からはイマイチ偉大さが分からない、セリフの中で、田横は素晴らしいみたいなのが何回も出てきて、それで偉大さを分からせようとしているのだが、さすがに無理がある。

 まあ、僕が劉邦が好きだから、というのもあるかもしれない。この作品の中で項羽と劉邦は、「無辜の民をも殲滅する残虐無比の項羽と、陰謀と変節の梟雄劉邦」とあって、どちらの評価も厳しい。本宮ひろ志の『赤龍王』をバイブルの一つとしている僕にとって、劉邦は魅力的な人物であり、それが梟雄として描かれていることに、潜在的な反感を持ってしまっているのかもしれない。

 もっとも「無辜の民をも殲滅する残虐無比の項羽と、陰謀と変節の梟雄劉邦」という評価は間違っていないということは知っている。劉邦が項羽との戦いに最終的に勝ったのは、項羽の若さが、劉邦のいやらしい何でもありの老獪な部分に負けたのだ、という説は普通に言われているものだ。さらに劉邦が、漢を建国してからかっての友人や同僚を陥れ、殺害したり、クビにしていったことも事実だ。

 この作品が面白かった、というか、読んだ価値があったな、と思ったのもまさにこの点に関わるところだ。いくつかの劉邦と項羽に関する本を読んでおり、僕の様に劉邦の大人物的なところに惚れているような人にとっては、この本は読んでおくべきだと思う。特に四巻の最後100ページは読んでおくべきだろう。劉邦の、というか権力者の、卑劣で破廉恥な裏切りによって田横は大危機に陥れられる。そしてそれに対する田横の対応が彼の見事な生を際立たせるのだ。劉邦を主人公として書けば、絶対に書かないところだ。劉邦を、というか歴史上成功した者を英雄視して、手放しで褒めてしまう様なことは、かえって真実の歴史の姿から離れてしまう危険性がある、ということをこの本は教えてくれる。その一点でのみ、面白く、読む価値のある本だと思う。…だからさあ、短編で良かったんじゃないの、宮城谷さん。下に4巻のタグだけ入れておく。

 5月29日、米原万里さんが逝去された。追悼の意を込めて、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読み返そうと思っている。

香乱記〈4〉
香乱記〈4〉 (新潮文庫)

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