新聞、小説、マンガの感想その他もろもろ雑記

アクセスカウンタ

zoom RSS 宮城谷昌光『晏子(一)(二)』新潮文庫−晏弱編

<<   作成日時 : 2006/03/02 04:35   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

結局、『晏子』にした。『重耳』や『孟嘗君』を紹介するほうが、出世作だし、派手で良いかもしれない。けれど、やはり紹介する私が、宮城谷昌光で何を薦めるか、と聞かれれば、やはり『晏子』になる。

晏子とは普通、春秋戦国時代の名臣である「晏嬰」の事を指す。「だれ?」と思うかもしれない。『重耳』は晋の文公のことであり、教科書にものっている。『孟嘗君』は「鶏鳴狗盗」の話で有名だ。で、『晏子』って誰?でもこういえば、へえ、と思っていただけるのではないか。司馬遷の『史記』の列伝の二つ目の話にでてきて、その中で司馬遷はこういう。
「晏子は、荘公の死骸に身を投げかけ、声をあげては泣き、礼儀を失わなかった。その上でその場を立ち去った。これぞ、義を見てせざるは勇なきなり、というものであろうか。いさめるには、主君の顔色をかえりみなかった。これぞ、進んでは忠を尽くさんことを思い、退いては過ちを補わんことを思う」というものであろうか。…晏子がもし、今の時代に生きていたなら、私は御者となってでも仕えたい。それほどに晏子を敬慕している。」

宮城谷昌光の作品のすばらしいところは、著作から宮城谷昌光の人生の味が垣間見えるところだ。苦労して歴史作家となり、史料に虚心で何日もかけて向かい、一つ一つ時間をかけて、
ゆっくりと著作を丁寧に完成させていったその姿勢が、見事に著作に結実されている。もちろん私は氏と面識があるわけではないけれど、本を読めば、氏の文章から人に対する細やかな愛、がよく見てとれる。そこが、日々苦しいながらも生きていっている、われらの心に響くのである。ただ、私が考える宮城谷昌光の作品の弱点は、あまりにも丁寧すぎて、主人公の前半生や、父の時代にスポットがあてられすぎとなり、主人公本人の重要な話が少なかったりすることがあることだ。『重耳』も『孟嘗君』もその意味で私は不満だった。彼らが成長してからをもっと書いて欲しいと思ったのである。この『晏子』でも、氏は晏子の父である晏弱で前半2巻を費やしている。しかし、『晏子』については、晏弱二巻、晏嬰二巻なので、バランスも良く、晏嬰の本格的登場も比較的早い。そこで『晏子』なのである。

晏弱、名前がすごいよね。将軍なのだが『弱』って…だけど、これは、この弱は「飾り弓」を表しているので、立派な将軍らしい名前なのである。一巻の冒頭から晏弱は、斉の頃公の家臣として、いろんなピンチをくぐりぬけていく。他の家臣達の勢力争いに巻き込まれながら、後にこの話に一つのヤマ場の中心人物となる「崔杼」に救われたり、救ったりしながら、しだいに、人望を集めていく。そして、その頃公の子、霊公の下で抜擢され、太公望ですら失敗した來の国を攻め、見事に滅ぼす。そして見事に治める。
それより少し前、晏弱には子どもが生まれる。晏嬰と名づけられたその子は、晏弱をがっかりさせた。なぜなら、将軍の子であるのにもかかわらず、小柄で脆弱であったからである。10歳の時も5,6歳にしか見えなかったという。しかし、この子どもは成長するにしたがって、見事な素質を開いていく。

晏弱と晏嬰の問答が心を惹く。
「人が迷うことがあるとすれば、欲においてではないでしょうか。欲を捨て去れば、おのずと迷いも消えるような気がします。」という晏嬰に対して、晏弱は言う。「言うは易いが、おこなうは難い。欲を捨てきれる者は皆無と言っていい。なぜなら欲を捨てようと欲することが、すでに欲となるからだ。ただし、過大な欲を捨てることはできる。寡欲であればよい」
晏嬰は再び聞く「わたしどもは過大な欲をつつしみましても、国というものが過大な欲をもった場合、人臣の一人として、いかがすればよろしいのでしょう。」これへの晏弱への答えがまたすばらしい。現実的課題でもあるし、ぜひ読んでほしい。

前半の最大のヤマ場は、晏嬰が二十歳となり、霊公の下で仕えるようになってからの話である。晏嬰が都を訪れた時、女性が男装をすることが流行っていた。晏嬰は若いながらも異論を唱え、父を通してやめさせるよう説く。霊公はこの諫言を聞き、禁止とするが直らない。実際に取り締まったのにも関わらず、増えるばかりであった。これは王に対する侮辱である。霊公は怒り、悩む。そこに、晏嬰が通りかかった。霊公はイライラし、口調を荒げながら、晏嬰に問う。
「禁令を発して、久しくなるというのに、その飾りをなす女子は道を行きかい、とてもその装いを
やめそうにない。なにゆえであるか。意見を申せ」晏嬰は見事な答弁をする。これが羊頭狗肉の類義語、「牛首を門にかけて、馬肉を内に売る」の元となった話である。

父の晏弱が将軍として活躍したのに対し、子の晏嬰は官吏として、斉の国が勢力争いで乱れる中で、見事に自分の信念を貫き、正しいことはどんなに危険であろうと正しいといい、それでいながら見事に生ききった。後半の三巻四巻も「崔杼、その君を殺す」の話に晏嬰はどう対処したのか、など読みどころ満載だ。ぜひぜひ、読んでいただきたい。

晏子〈第1巻〉晏子〈第2巻〉晏子〈第3巻〉晏子〈第4巻〉
晏子〈第1巻〉 (新潮文庫)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
宮城谷昌光『晏子(一)(二)』新潮文庫−晏弱編 新聞、小説、マンガの感想その他もろもろ雑記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる